2023年1月研究会(オンライン)のお知らせ

日本演劇学会 演劇と教育研究会
2023年1月研究会(オンライン)のお知らせ

日 程:1月29日(日)午後2時から

テーマ:「Yes, and でつながる集団づくり〜インプロを学級活動に取り入れて〜」

報告者:大阪府大東市立四条小学校      阪下真美

主 旨:

【発表の背景】

子どもたちの発想や表現には、無限の可能性があり、大人の想像を超えるぐらい豊かなものである。しかし、学校教育が、本来彼らが持つ発想や表現に制限をかけてしまっているのではと発表者は感じている。例えば、自分の考えに自信が持てず、みんなの前で発表する際、萎縮してしまう様子が見られる子どもは少なくない。学校教育の中で、正解不正解を求められる場面が多いことが、このような実態の要因になっていると危惧を感じた発表者は、彼らが本来持つ発想や表現を解放させる手立てがあるのではと考えた。そこで、知らずのうちに頭の中にできてしまっているフィルター(検閲)を外していくために、インプロ活動が効果的であることを知った発表者は、インプロアカデミー[1]主催のさまざまなレッスンに参加した。その中で多様なインプロ活動を体験し、その中でクラスでも実践できそうなゲームを年度当初より取り入れながら、学級経営を進めてきた。

現在、教育現場では「思考力・判断力・表現力」を育むことが目標の一つに掲げられている。それらの力を育むためには、どのような環境、「場」が必要といえるのか、その一つ手段としてインプロ活動がもたらす可能性について、今回の発表ではさらに言及していきたい。

【実践の概要】

発表者は今年度、第5学年32名在籍の学級を担当している。4月当初より、朝の会の時間を毎日確保するようにしている。朝はそれぞれがいろんな思いを抱えて登校してくる。そんな時、まず自分のその思いを共有し合うことができたら、安心して一日をスタートさせることができるのではと考え、インプロゲームの一つでもある、「元気度チェック」を取り入れることにした。朝の挨拶をした後、「今日の元気度は?」と尋ねる。すると、子どもたちは指で元気度を提示する(1〜5)。そして、「○○さん、その心は?」と尋ねられたら、なぜその元気度にしたのか、その理由を答える。慣れるまでは、このように教師から尋ね、当てられた児童がみんなの前で答え、その後席が隣の友だちと交流するという流れで進めてきた。しかし、1ヶ月近く過ぎたあたりから、挨拶係の児童から「私たちが前でみんなに聞いていきたい。」と言ったため、その日から現在に至るまで、朝の会の元気度チェックは挨拶係の児童が進めている。その心を尋ねられた子どもたちは、当初「ねむいから」「元気やから」という一言の返答であることが多かった。しかし、次第に「今日は〜があるから〜感じている。」「昨日な、〜なことがあってさ。」などというように自分の思いをありのまま語る姿があちらこちらで見られるようになった。隣の相手によっては、話すことができない様子も当初はあったが、現在では隣が誰になってもその心を語ることができるようになっている。

元気度チェック以外にも、「インプロ大喜利」、「サウンドボール」、「解決社長」、「スリーシングス」といったゲームにも取り組んできた。朝の会のメニューの中にゲームの時間として組み込んでいたこともあったが、習慣にしすぎると、「〜しなければならない」という意識になってしまい、面白い発想がなかなか生まれない状態になったため、授業の隙間時間や帰る直前など、ふとした瞬間に突然「ゲームするよ」と始めることにした。また、ファシリテーターを担任である発表者ばかりがするのではなく、子どもたち自身がファシリテーターとなり、主体的にゲームをする姿も見られるようになった。インプロは、「即興演劇のこと」であり、考える前にパッと出てきた自分の発想や表現を大切にする練習となる。初めの方はパッと発想が出てこないため、「うーん」と悩む子どもたちの姿がたくさん見られた。しかし、やればやるほど、自分から出てきた発想を瞬時に出せるようになってきた。これらの活動には決まった一つの正解がないため、子どもたちはリラックスした状態で参加できていた。

【結果と課題】

4月から約10ヶ月このような取り組みを続けてきた結果、子どもたちの変容がたくさん見られるようになった。完全にとは言えないが、子どもたちの中に知らずのうちに出来てしまっていた固定概念のフィルターが外れてきたといえる。正解不正解を気にして萎縮している様子はほとんど見られなくなったのだ。しかし、インプロの活動を積極的に取り入れた結果、その子自身だけが変容したのではないことを確認しておきたい。インプロ活動を一つの手段とし学級づくりを進めてきた結果、クラスという集団として変容した、だから、個々の変容も見られるようになったといえるからだ。一人ひとりの発想や表現が発揮できるようにするためには、周りの環境、その「場」が安心できる「場」であることが大前提であり、自分の発想や表現が受けいれられる「場」が必要不可欠であることがわかった。

インプロに慣れることで、発想力や表現力が身についたというよりも、それらを受けいれる「受容性」が集団の中に育まれたと捉えられる。自分や友だちの発想や表現を否定することなく、受容する。だから、安心の「場」が生まれ、その結果、さらに彼らの発想や表現が動き出す。このサイクルが集団づくりの軸となったのではないだろうか。「相手をまずは受けいれる」ことは、演劇界でも大事にされている‘Yes, and’の精神と同じであり、‘Yes, and’について、子どもたちとも5月頃に共有し、さらには教師自身、この精神を大切にすることを日頃より意識し続けたことが今回の結果に繋がったと考察できる。(企画担当:高 山昇)

■研究会の申し込み方法
参加を希望される方は以下のフォームに必要事項を記入の上お申し込みください。後日、ID/PWまたはURLをご連絡します。
https://forms.gle/b4jgUofCQH94k1rh8

■研究発表&実践報告の募集
日々の研究成果や実践をご報告してくださる方を、募集しています。
口頭によるご報告&質疑、60~90分程度。
実施に際してはA4版2~3枚程度のレジュメ作成をお願いしています。
ご希望の方は、E-mailで研究会宛ご連絡をお願いします。
運営委員会で確認後、日程等のご相談をさせていただきます。

日本演劇学会分科会 演劇と教育研究会

 


1月研究会は、大阪府大東市立四条小学校の阪下真美さんのご発表でした。「Yes, and でつながる集団づくり」というテーマで、インプロを学級活動に取り入れた実践とクラスや児童の変容の様子について、詳しくご報告いただきました。皆さまお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございました。
「学校教育が、本来児童・生徒たちが持つ発想や表現に制限をかけてしまっているのではないか」という実践の背景は、多くの教育(特に演劇教育)関係者が同意するものであり、その解放を目的にインプロ活動を用いた実践は非常に興味深い内容でした。質疑応答では、「実践の詳細」、「インプロの定義」、「児童個々の変容」などについて質疑が行われました。参加者の方々のご発言をきっかけに「シェアリング」、「場の変容」、「教師のイデオロギー」などにも議論が及びました。いくつかのテーマに関しては議論を深められないくらい、活発なご発言をいただきました。
今回の研究会を終え、演劇教育実践の仕掛けや内容を共有すること。そしてその成果を複数の観点から正確に評価することの重要性を実感しています。研究会としても積年の課題ではありますが、今後も取り組むべき課題であると再認識する研究会でした。(企画責任者:高山昇)