舞台芸術の社会的役割についての教育を(奥山緑)

2021年にサイトの引越しをしている際に見つかった資料です。2000年1月に行われた研究会シンポジウムに関するレビューです。掲載に問題あればご連絡ください。(花家)

シンポジウムでは、いろいろなお話が聞けて、大変ありがたかったです。
 感想はシンポジウムの最後にも述べましたが、せっかくウェブに載せていただける機会なのでちょっと足します。
 ひとつ感じたのは、俳優教育に大きな比重が置かれていることへの驚きでした。というのも、舞台制作者として、私が日ごろから感じていることに、舞台芸術 が世の中でどういう役割をもつのかということに、舞台に携わる方にもっと目を向けてもらいたい、ということがあるからです。いってしまえば、自分が制作者 だということもあるでしょうが、制作的な考え方を教えて頂きたいのです。これは「マネジメントが、芸術活動やその普及を支えるためにかなり重要なファク ターとなりうる」と認識しているからです。
 18歳の、この前まで高校生だった学生にいくら「舞台にマネジメントが必要」と言っても、理解するのは難しいかもしれませんが、将来、演劇や舞踊をなり わいにしていきたいという気持ちのある、学部でも上級学年の学生には、基礎的ながらもインテンシブな「舞台芸術が社会でどういう役割を果たすのか」という ことの学習機会があれば、制作希望の学生だけでなく、アーチストにも役に立つのではないかと考えます。このときには、こういう芸術環境をめぐる基礎講座 は、アーツ・マネジャー候補生のためだけではなく、アーチストのためにも非常に重要でしょう。特に、アカデミズムはこのことを教えてから卒業させて頂きた いと思います。
 もちろん、実際の研修が伴えば、より素晴らしく、舞台芸術界での就職の機会を増やすことにも、つながるのではないしょうか。もちろん、どんな仕事をイン ターンにやらせてもらえるかを事前に大学とインターン先で密につめておく必要があると思います。学生の、インターンを受け付ける劇場、劇団、団体は、個人 的な予測ですが、いくつもあると思います。いつでも、若くて、やる気いっぱいの若者を求めている業界ですから!
 言葉を変えて言えば、学部での演劇教育に、私が求めたいのは、俳優教育よりは、「この世界で何が何でもやっていこう」という気概と、基本的な舞台芸術に 関する広く基本的な知識(芝居を見ていない、戯曲を読んでいないで「芝居の制作がしたいです!」という若者もいて、はた、と困ったことがあります)と自分 たちが職業にして行こうとしている舞台芸術と社会の関わりへの関心です。あとの教育は、たとえば、制作なら制作で、照明なら照明で、いくらでも現場で教え られると思います。働く場所によって具体的には必要となる仕事内容が違いますので。
 ひとつの素晴らしい舞台に出会ったためにこの仕事を選んだ舞台人、周りにたくさんいます。学生時代に、そういう出会いをしてくれていることを願ってやみ ません。授業の一環として、どんどん学生に一流の舞台を見せて、学生の特権を使うという意味で、その後アーチストの話を聞くような機会を増やしてもいいの ではないでしょうか。
 教育のプロに、釈迦に説法だった気がして、恥ずかしくなりました。お許しください。現場の舞台制作者のひとりとして、また、フォーマルなアカデミズムの 場で演劇教育をうけたことのない個人として、学部での演劇教育に熱い思いを述べさせていただきました。アーツ・マネジャー教育で言えば、社会人向けの大学 院教育機関の設置を熱望しています。現在、セゾン文化財団と共同で企画した「舞台芸術と法律」というセミナー(セゾン文化財団主催)が、福井健策さんとい う若くて素晴らしい弁護士の先生に講師をしていただきつつ、進行中です。毎週毎週、多様な現場での経験をもつプロの舞台制作者である受講者の皆さんの熱心 さに圧倒されんばかりの勢いです。こういう需要は存在しているのです。

(おくやま・みどり 舞台制作者/Ame Arts, Inc.)