1987年5月16日に日本演劇学会の名前で文部省に提出した要望書の内容を以下に掲載します。印刷されたものがどこかにあるはずなのですが調査中です……多分、どなたかがご存知と思います。(花家)


近年、新劇団および児童劇団による高等学校・中学校・小学校向け演劇公演の活発化、ならびに文化庁による青少年向け演劇鑑賞活動の充実など、初 等・中等教育における優れた演劇鑑賞の気運は、徐々に全国的高まりを見せつつある。また文部省は昭和57年度以降において、高等学校に演劇科設置を認め、 関東国際高等学校(旧関東女子高等学校)および兵庫県立宝塚北高等学校に演劇科が史上初めて新設され、注目を浴びている。

 しかし初等・中等教育に占める「演劇による教育」は不当に無視され、国語表現教育における「話す・聞く」などの話法教育も不十分と言わざるを得ない。また高等学校教育の芸術科目に〈演劇〉はまだ導入されていない。

 この現状を憂慮する日本演劇学会は、昭和58年度春季大会において、文部省委託により高等学校における演劇教育実験校に指定され、2年間 にわたって演劇教育を正課に組み込んだ日本大学鶴ヶ丘高等学校の特別報告を受けて以来、昭和59年度には演劇科を持つ諸大学による『大学における演劇教 育』のシンポジウムをおこない、また『教員養成大学における演劇学習プロジェクト』の報告も受け、学会内に〈演劇と教育〉分科会を設立した。

 日本演劇学会〈演劇と教育〉分科会においては、国語教科書に採用された戯曲教材ほか演劇教育の実態および欧米諸国や中華人民共和国などに おける演劇教育の実情とその役割を調査・研究の上、本分科会会員諸氏の賛同を得て、昭和62年度日本演劇学会春季総会決議事項として下記の要望を、文部大 臣はじめ関係機関に提言し、また関係者各位に「演劇による教育」の振興を強く訴えるものである。

―― 記 ――

 初等・中等教育における「演劇による教育」は、演劇人養成を第一義とするものではなく、演劇的モデルを導入することにより「他者との関係把握と自 己客観視の能力を深め、個性を尊重しながら相互信頼に基づく集団的創造性と協調性を育成する全人的教育」を目指すものである。あわせて「身体動作をともな う、正しく美しい全身的国語表現力」を開発し、その能力を深めるものである。

 したがって「演劇による教育」は、演劇の専門教育ではなく、高度に機械化し情報化した「現代社会における教育のひずみを是正し、人間形成の総合的基盤をなす全人的教育の核」とならなければならない。とくに中学校・小学校教育におけるその必要性を痛感するものである。

 そこで次の5項目実現を強く要望する。

  1. 初等・中等教育にかかわるすべての教員免許状取得条件に「国語話法および自己と他者との相対的関係把握」に関する演劇関連講座の単位修得を義務づける。
  2. 初等・中等教育の〈国語〉における「話す・聞く」など国語話法の単元を充実する。そのための教材に演劇関連教材(戯曲・即興劇・ロールプレイングなど)を積極的に導入する。
  3. 高等学校・中学校における〈演劇〉教育のための教員免許状を設定する。
  4. 高等学校の芸術科目に〈演劇〉を導入する。また中学校教育科目に〈演劇〉を新設する。
  5. 「演劇による教育」の充実をはかるため、文部大臣の諮問機関として〈演劇教育審議会〉を設置する。

以上  

 昭和62年5月16日

日本演劇学会