演劇教育の実践を研究すること*——レビュー(藤野裕美)

*高尾隆氏による発表(2004年5月9日、日本大学芸術学部にて) 

「演劇と教育」研究会は、発表者である高尾から伺い、聴講生気分で参加しました。会議室のような部屋の雰囲気に、一瞬、「こんな格好でよかったのかな?」と、不安になりましたが、インプロ(即興演劇)で関わりのある、知った顔がいくつかあり、すぐに気持ちが楽になりました。高尾の発表は、テーブルマナーの必要な、高級レストランに出される料理のようで、なんだかおかしかったです。普段聞いている話が、材料は同じなのに、専門用語で味付けされて、かしこまっていました。そんな風に、発表は気楽に観覧していましたが、質疑応答に移ったとたん、自分のいる場も舞台の上なのだと思い出させられ、ドキドキしました。ほとんどセリフなしの脇役だったけれど、ベテランさんたちと同じ舞台を踏んだ新人のような緊張感、意外に気持ち良かったです。

そして、今回、このようなレビューを書く機会をいただき、自分は文章にまとめるのがとても苦手なのだということに、改めて気付かされました。まず、書き始めに時間が掛かるし、何度も書き直すし、出来上がってくる文章は、頭の中の考えとはまったく違うし。頭の中では、次から次へと言葉が出てくるのに、それを書き留めていくと、もう違う考えになっている。文章にまとめるのって、すんごく面倒くさい。高尾は、「研究者は、実践者をクイモノにしている。」なんて言っていたけど、実践者からすると、「実践者は、研究者にメンドウを押し付けている。」のかもしれません。だって、やってることを言葉になんてできないんだもの。でも、それは、お互いを活かし合うための、役割分担だと思います。お父さんとお母さんのどっちが大事かなんて言えないし、お母さんが働いてお父さんが主夫することもあるわけだし。

ただ、私としては、研究者の方々と共に行う実践や、振り返りの場までが、精一杯背伸びして、研究者たらんとしている限界だなぁと実感しました。私にとっては、実践は研究そのものであり、現場は仕事や日常です。こんな風に、明確に文章にまとめる機会はほとんどありません。ですから、今回の研究会で、アカデミックな場で活躍されているみなさまとお話をすることで、普段言葉にしないことをたくさん考え、たくさん刺激をいただきました。このような素晴らしい学びの機会をいただけたこと、感謝しています。本当にありがとうございました。

追伸:最後に、宣伝になりますが、高尾や私が行っている活動のご紹介をいたします。即興実験学校では、キース・ジョンストンのスタイルでのインプロ・ワークショップを行っています。ケアとインプロ研究所では、インプロの理論の、日常レベルでの活用法を探るワークショップを行っています。よろしければ、下記ホームページをご覧ください。